
昔の野菜と比べて、最近の野菜は栄養が少なくなっていると聞いたことはありませんか?
農業技術が進歩するなか、野菜の栄養素量を増やす研究もされていますが、自然環境の変化など、さまざまな要因で栄養が少なくなってしまった野菜もあるようです。
健康のために、毎日野菜を食べるように心がけているのに、野菜の栄養素量が減っているなら、「栄養が十分に摂れていないのでは?」と心配になりますね。
そこで、昔の野菜と現代の野菜の栄養素量の違いを検証したうえで、野菜の栄養を効率的に摂る方法をお教えします。
昔の野菜と現代の野菜の栄養素量の違い
野菜には、ビタミンA・ビタミンCなどのビタミン類や、カリウム・鉄などのミネラル類が豊富に含まれています。
これらの栄養素がどれくらいあるのかを知るために利用するのが、「日本食品標準成分表」です。
日本食品標準成分表(以下、食品成分表という)は、文部科学省が食品の成分を調査して公表しているデータで、栄養士などがカロリーや栄養成分を調べるために使う資料です。
野菜の栄養素量が減ってきているとする根拠となっているのが、昔と現代の食品成分表の栄養素量の比較によるものです。
例えば、1963年(昭和38年)に公表された「三訂日本食品標準成分表」と最新の「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」で、キャベツの栄養素量を比較すると、ビタミンCが80㎎から41㎎に減少しています。
約50年の間に、キャベツのビタミンC量は半分になってしまったことになり、現代の野菜は栄養が少なくなったとされています。
[日本食品標準成分表三訂と七訂の比較(100gあたりの栄養素量)]
種類 | 栄養素 | 三訂 | 七訂 | 減少率 |
---|---|---|---|---|
キャベツ | ビタミンC(mg) | 80 | 41 | 49% |
アスパラガス | ビタミンB2(mg) | 0.3 | 0.15 | 50% |
ホウレンソウ | 鉄(mg) | 13 | 2 | 85% |
昔の野菜と現代の野菜の栄養素量を比べると、「やっぱり、最近の野菜は栄養が少なくなったんだ」と思いますよね?
でもじつは、そう単純に結論づけることは出来ないのです。
食品成分表の比較は意味が無い?
なぜ、野菜の栄養が少なくなったと言い切れないのか。
そもそも、食品成分表は最新のデータをもとに、食品の成分を明らかにするものであって、年代の違う食品成分表同士を比べるのには適さないとされているからです。
七訂の食品成分表には以下のように記載されています。
食品成分表の策定に当たっては、初版から今回改訂に至るまでのそれぞれの時点におい最適な分析方法を用いている。
したがって、この間の技術の進歩等により、分析方法等に違いがある。
また、分析に用いた試料についても、それぞれの時点において一般に入手できるものを選定しているため、同一のものではなく、品種等の違いもある。
このため、食品名が同一であっても、各版の間における成分値の比較は適当ではないことがある。
つまり、同じ野菜でも、食品成分表の年代によって、分析方法の違いや品種の違いなどがあります。
そして、正確な数値として比較することはできないということなのです。
野菜の栄養素量が減少している理由
食品成分表を比べて、「今の野菜は栄養が少なくなった」と断言することはできませんが、現代の野菜は、栄養素量が減っているものが多いのは確かです。
なぜ、現代の食品成分表の数値は、昔のものより、減少傾向になるのでしょうか?
その理由として挙げられるのは「分析方法の進歩」「野菜の品種改良」さらに「栽培時期」の違いの3つです。
野菜の品種改良の影響と栽培時期による栄養素の違いについて説明します。
品種改良の影響
現代の野菜は、「見た目を重視して商品価値を高める」傾向があります。
まっすぐのキュウリや虫くいのないキャベツなど、消費者が求める形になるよう品種改良が繰り返されています。
さらに、甘くて食べやすい野菜が求められるようになり、昔は酸味が強かったトマトやみかん、イチゴはどんどん甘くなり、ピーマンやキュウリは苦みや青臭さが減るように、それぞれ品種改良が進んでいます。
酸味や苦味を抑えることで、ビタミンCやポリフェノール類が減ってしまうなど、栄養素量の減少につながる場合があります。
栽培時期の変化
昔の野菜はほとんどが、屋外の畑で作る露地栽培でしたが、現代では、季節や天候に左右されず、効率よく安定的に生産が望める「ハウス栽培などの人工栽培」が増えています。
露地栽培では、1年のうちでもっとも野菜の栄養価が高くなる旬の時期に収穫して、すぐに出荷します。
人工栽培では、旬以外の時期にも収穫するため、比較すると栄養価は低くなります。
昔の栄養成分表では、旬の時期に収穫された野菜を分析していましたが、現代栄養成分表では、“年間を通じて普通に摂取する場合の全国的な平均値を表わす”となっています。
旬以外の時期に収穫された野菜も含めた平均の数値になっているため、栄養素量は低くなります。
化学肥料による土の性質の変化も原因のひとつ
近年、効率よく野菜を生産するために、多くの化学肥料が使われるようになりました。
化学肥料の成分は、窒素やリン、カリウムが中心で、使い続けていると、もともと土に含まれていた栄養分(ミネラル)が減り、土の質が悪くなるといわれています。
土が痩せると、当然、野菜に含まれる栄養素も減ってしまいます。
世界の土を調べた調査では、アメリカの土の85%、アジアの土の76%、ヨーロッパの土の72%もミネラル分が減ったとされています。
昔より野菜を食べる量が減っている
現代の私たちは、旬以外の時期に収穫された野菜や輸入野菜、冷凍野菜などを食べる機会が増えています。
対して、昔の人々は、旬の時期に地元で収穫された新鮮な野菜を食べていたでしょう。
昔と比べると現代の私たちが、同じ量の野菜から摂取できる栄養素量は減少しているのではないかと推測できます。
さらに、日本人の野菜消費量は、年々減少しています。農林水産省の主要農産物の消費動向によると、昭和46年と平成23年では、約2割強も野菜の消費量が減っています。
国民1人1年あたりの野菜消費量:昭和46年119㎏→平成23年91㎏
健康を維持するためには、1日あたり野菜350gを食べるのが目標とされていますが、厚生労働省の「平成29年度 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、日本人の野菜摂取量は1日あたり平均288.2gでした。
とくに若い世代は野菜を食べている量が少なく、男性では30歳代、女性では20歳代の方が最も野菜が不足しています。
野菜は、からだの調子を整えるビタミンやミネラルが豊富で、免疫力を高めて病気を予防したり、抗酸化力の高いポリフェノールには若さを保つ効果があったり、健康と美容の両方をサポートしてくれる重要な役割をもつ食べものです。
健康な日々のために、野菜をしっかりと食べるくふうをしていきましょう。
どのような野菜を食べればいいのか?野菜の栄養をしっかりとる方法
野菜の栄養素を不足なく摂るためには、目標となる350gを意識するとともに、質の良い野菜を選ぶことも大切です。
質の良い野菜とは、栄養価の高い野菜ですが、どのような野菜を選べば良いのかを覚えておきましょう。
◎旬の野菜を選ぶ
先述したように、野菜には旬があり、その時期に収穫されたものが、もっとも栄養価が高くなります。
たとえば、ほうれんそうは年中スーパーで売っていますが、旬は冬です。
冬の時期に収穫されたほうれんそうは、夏の時期に収穫されたものと比べて、ビタミンC量が3倍もあります。(ビタミンC量:冬採り30㎎ 夏採り10㎎)
※出典:日本食品標準成分表2015年版(七訂)・食品成分データベースより
旬の野菜を選んで食べることで、効率よく栄養を摂ることができるうえに、味もおいしくて、値段は安いのでいいことづくしです。
◎新鮮な野菜を選ぶ
ほとんどの野菜は収穫して時間が経つと栄養素が減っていきます。
ほうれんそうのビタミンCの量は、収穫した日がピークで3日後には約30%減少、7日後には、約50%も減少してしまいます。
海外や遠方で収穫された野菜は、手元に届くまで時間がかかるので、どうしても栄養素量が少なくなりがちです。
なるべく地元産の野菜を選んだり、産直市場などで獲れたての野菜を選んだりする方法で、新鮮な野菜からしっかり栄養を摂りましょう。
◎どうしても不足してしまう分は、青汁や野菜ジュースで補っても
野菜の栄養は、野菜を食べて摂るのが基本です。
でも、食欲が落ちている時や忙しくてなかなか野菜を食べられない時など、どうしても野菜を食べる量が減ってしまう時は、青汁や野菜ジュースなどを利用して、不足している栄養を補給するのもひとつの方法です。
ただし、果物入りの青汁や野菜ジュースを飲みすぎると、糖分のとり過ぎになるため、1日200ml程度までに抑えるようにして下さい。
まとめ
「今の野菜は栄養が減っている」とよく聞きますが、昔と現代の食品成分表のデータを単純に比較することはできないため、明らかに栄養が減ったとはいえないとわかりました。
でも昔と比べて、旬の時期以外の野菜や輸入野菜を多く食べるようになったうえに、野菜の消費量も減っているため、現代の私たちは野菜の栄養が不足しがちだということもわかりました。
野菜の栄養を効率よく摂るためには、旬の時期に獲れた地元産の野菜を選ぶ「地産地消」がもっとも良い方法ではないでしょうか。
新鮮で栄養豊富な野菜をしっかり食べて、毎日の健康づくりに役立てましょう。
参考書籍
文部科学省「三訂日本食品標準成分表」「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
参考URL
月報野菜情報 情報コーナー「野菜の旬と栄養価~旬を知り、豊かな食卓を~」
http://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/joho/0811/joho01.html
農林水産省「野菜の消費をめぐる状況について」P1
http://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai_zyukyu/y_h29_mitosi/pdf/yasai_shohi_jyokyo.pdf